ハワイの実証プラントで省エネルギー・高効率な海水淡水化を達成 ~次世代水処理システムの基幹部材を新開発~
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株式会社日本触媒(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:野田和宏、以下「日本触媒」)は、Trevi Systems Inc.(本社:米国カリフォルニア州、CEO:John Webley、以下「Trevi Systems社」※1)と次世代の海水淡水化/水処理システムである正浸透(FO)システムの基幹部材である浸透圧発生剤(Draw Solution、以下「DS」)を共同開発しました。Trevi Systems社は米国エネルギー省から4百万ドルの資金援助を受けて、ハワイ島において、共同開発したDSを用いて海水から淡水を造るプロジェクト(※2)を2022年6月より開始し、全てのデータ取得を2023年9月に完了しました(写真1)。
近年、世界各地で水不足が深刻化しており、農業用水や飲料水向けの海水淡水化や工場の水処理に逆浸透(RO)システムが広く用いられています。ROシステムは、海水や排水に高圧をかけ、RO膜という半透膜で塩分や不純物をろ過する仕組みで、高品質な水が得られる技術として世界的に普及していますが、高圧をかけるために大量の電力を必要とすることが問題となっています(図1)。
この問題を解決する方法としてFOシステムが注目されています。FOシステムは、塩分など水に溶けている成分の濃度が異なる水溶液が半透膜を隔てて接するとき、2つの水溶液の濃度が均一になるように、濃度が低い水溶液から高い水溶液へ自然に水が移動する「浸透」という現象を利用しています。FOシステムによる海水淡水化では、海水と、海水より高濃度のDS溶液を、FO膜という半透膜を隔てて接触させることにより浸透圧が発生し、海水からDS溶液に水のみが移動します(図1)。これにより、大量の水を含んだDS溶液(DSと水が均一に混ざり合った水溶液)が得られますが、日本触媒とTrevi Systems社が共同開発したDSは、加熱することで水と分離する性質を持つため、水だけを取り出すことができます(写真2)。
2010年に設立された米国企業・Trevi Systems社が開発したFOシステムは、加熱により水と分離するDSを用いることと、分離後のDSをシステム内で再利用することなどが特徴です(図2)。2016年に中東(UAE)で海水から50m3/日の淡水を造る実証試験が行われ、電力消費量をROシステムの1/3程度に低減できることが実証されています。
しかし、FOシステムの本格的な普及にはさらなる造水能力の向上が必要で、その実現には基幹部材であるDSの高性能化が重要な鍵となります。日本触媒はTrevi Systems社と共同でDSの高性能化に取り組み、従来品よりも造水能力を30%向上可能なDSの開発に成功しました。今回、Trevi Systems社がハワイ島で実施した500m3/日の実証試験(※2)では本DSが使用されました。実証試験の結果、①海水中の65%以上の水を淡水として取得できること、②電力消費量はROシステムと比較して1/3となること、③設備投資はROシステムとほぼ同等になることが実証されました。Trevi Systems社はハワイ島の同じサイトで、更にスケールアップさせた6,000m3/日の海水淡水化FOプラントの稼働も計画しています。さらにこのプラントでは、濃縮海水をモデル液とした廃液排出ゼロ(※3)の実証試験や、海水を濃縮してミネラル分を回収する実証試験も予定されています。
FOシステムは中東のような水需要の大きい地域での海水淡水化や、廃液排出ゼロのための濃縮技術としても導入が検討されております。日本触媒では今後のFOシステムの拡大を見据え、DSの更なる性能向上、高機能化に努めます。また、FOシステムを始めとした技術革新を推進し、水分野における様々な社会課題の解決に取り組んで参ります。
※1.Trevi Systems社について
海水淡水化や海水濃縮を持続可能かつ効率的に行うことができるFO技術のリーディングカンパニー。本社はカリフォルニア。イノベーションと環境問題の解決を目指し、従来技術では処理が困難な廃水をきれいな水や資源に変えるためのFOおよび加圧FOシステムの開発を進め、その可能性を拡げ続けている。
詳しくはこちら:https://www.trevisystems.com/
※2.ハワイでのFO海水淡水化プロジェクト
米国エネルギー省のSun Shotプログラムのプロジェクトの1つ。ハワイエネルギー研究所(NELHA)保有の太陽熱集熱設備とTrevi Systems社のFOシステムを組み合わせて、海水淡水化の実証試験を行った。
※3.廃液排出ゼロ(Zero Liquid Discharge)
水の浄化方法の1つで、ZLDとも呼ばれる。塩分や不純物、有害物を含む水溶液を固形物と浄水に分離し、液体廃棄物をゼロにすることが特徴。
Trevi Systems社における発表はこちら