トップメッセージ
はじめに
日本触媒グループは、企業理念「TechnoAmenity ~私たちはテクノロジーをもって、人と社会に豊かさと快適さを提供します」の実現を目指し、事業活動を行っています。そこには、単純に物質的な豊かさだけではなく、人々が精神的な面も含めて快適で心地よく、希望を持って暮らすことができる社会づくりに貢献するという想いが込められています。
当社は、1941年の創業以来、独自の技術開発により、酸化エチレン(EO)、アクリル酸(AA)、高吸水性樹脂(SAP)などの化学品を提供してきました。これらの化学品は洗剤、繊維、紙おむつなど皆様の快適で豊かな生活に関わる重要な製品として使用されることで、「TechnoAmenity」を具現化するとともに、当社も大きく発展してきました。
しかしながら、昨今はこれら化学品のグローバル化・コモディティ化が進み、世界的なコスト競争激化により事業環境の厳しさが増してきていることに加えて、環境負荷低減など製品に求められる機能も多様化しています。また、気候変動などの環境課題に対する取り組みをはじめとする持続可能な社会の実現に向けたESG活動も、企業の存続に必要不可欠なものとなっています。
このような背景から、当社は2030年の目指す姿である長期ビジョン「TechnoAmenity for the future」を定め、その実現に向けて、2022~2024年度を変革に向けた基盤づくりと変革の実行を進める第一フェーズとして中期経営計画「TechnoAmenity for the future-Ⅰ」(以下「中計」)を策定し推進しております。
中計1年目の2022年度は、長引くコロナ禍の影響、そしてウクライナ情勢に端を発した石油をはじめとする化学原料や天然ガスなどのエネルギー価格の高騰、欧米の金利政策を受けた急激な為替変動など、経済環境が目まぐるしく変化しました。
今年に入り、コロナ収束によるインバウンド需要や中国経済の回復などの明るい兆しが見えるものの、ウクライナ情勢の長期化に伴うエネルギー価格の高騰や、金融引き締めによる海外景気の悪化など世界経済は後退局面に陥る可能性も予想されています(2023年6月現在)。また、アフターコロナの消費動向も以前とは異なってきており、インフレによる消費冷え込みも当面は避けられないものと思われます。
このような事業環境が激動する状況においても、長期ビジョンと中計に掲げている「事業の変革」「環境対応への変革」「組織の変革」という「3つの変革」が、当社の持続的な成長・進化のために必須の取り組みであると考えています。重要なのは、変化に応じて柔軟に戦略を修正しながら、最終的に目標を達成することだと考えています。したがって長期ビジョンおよび中計の方向性や目標は堅持し、いかにこれを実現するかに重点を置いて取り組みを進めてまいります。
2022年度の概況
事業の変革
2022年度から事業セグメントを変更し、マテリアルズ事業とソリューションズ事業に区分しました。マテリアルズ事業を抜本的に立て直して事業基盤を強化するとともに、収益性の高いソリューションズ事業を拡大させて、収益性をあげていく考えに基づくものです。経営目標として、2024年までにマテリアルズ事業とソリューションズ事業の売上収益の割合を65%と35%に、営業利益の割合を50%と50%にすることを掲げています。これに対し、2022年度の実績は、マテリアルズ事業が対前年で増収、営業利益は横ばい、ソリューションズ事業は対前年で増収減益でした。販売数量の減少が大きく影響していますが、先にも触れた通り、目標は変えることなく市況に影響されない事業基盤を築いていきます。
施策の実行状況としては、マテリアルズ事業においては、AA、SAPの収益性強化を目的に継続している「SAPサバイバルプロジェクト」が概ね計画通りに進捗しました。また、本プロジェクトの水平展開として、2021年度からスタートしているEOレジリエンスプロジェクトも2024年度の収益改善目標達成に向け計画通り進行中です。
一方、ソリューションズ事業においては、企画・営業組織への人的リソース投入を進め、提案力強化の中核となるプラットフォーム整備がほぼ完了しました。2023年度はこのプラットフォームの本格運用を開始し、全社横断プロジェクト(One Team活動)として取り組んでいる開発テーマを促進させ、ソリューションズ事業拡大の加速につなげていきます。また戦略製品の拡販による収益力向上策の一つとして、リチウムイオン電池用電解質イオネル®の事業拡大に向けた取り組みを進めています。具体的には、中国、欧州でのパートナー企業との連携による事業拡大であり、地産地消の競争優位をベースに、中長期的に事業を成長させていきます。これは、事業環境変化の激しい昨今、これまでのような当社単独での事業展開だけでは十分な競争力は得られないという考えに基づくものです。今後も戦略製品の事業拡大については、さまざまな社外パートナーとの連携を強化しながら、事業展開を加速させてまいります。
環境対応への変革
気候変動に対しては、EUで既に本格化している二酸化炭素の排出権取引の動きを受けて、日本国内でも炭素賦課金や排出権取引の検討が始まりました。また、EUを中心に、域内への製品輸出に対する国境炭素調整に関する議論も進んでおり、排出炭素の削減は2050年のカーボンニュートラルという世界共通の目的に向け、ますます加速しています。
温室効果ガス削減の取り組み
当社は2030年度の国内グループ会社を含む温室効果ガス削減目標として、2014年度比30%削減を掲げています。一昨年の2021年度実績は生産数量の増加もあり、製造所での継続的な省エネ活動を中心に2014年度比2%の削減に留まっていました。一方で、2022年度からは約7%の削減量に相当するカーボンニュートラル都市ガスの活用も進めており、省エネ活動とあわせて14%の削減を達成しています。2030年度の目標達成に向けては、プロセスの改善や触媒の効率向上などをあわせて推進していきます。
さらに、グループ全体を通じた二酸化炭素の排出削減推進に向け、インターナルカーボンプライシングの導入も決定しました。
2050年のカーボンニュートラル
2030年度の削減目標積み増しも視野に入れ、バイオマス原料の導入を進めています。今年度は、姫路製造所および川崎製造所で生産するAAやSAP、EOなど19品目について、ISCC PLUS認証を取得しました。これにより当社は、バイオマス由来原料をマスバランス方式によって割り当てた認証製品について製造・販売する体制を整えました。また、欧州の子会社であるNSEでは、ISCC PLUS認証を受けたSAPの生産・供給を開始しました。
一方で、天然物100%由来のAA新製法の開発を行うとともに、バイオマス原料を使用したEO誘導品の製造・販売に向けた共同調査をパートナー会社と継続検討しております。
これら天然物由来の製品は、地球環境保全や環境負荷低減などのニーズに応えるものであるとともに、当社のさらなる成長に欠かすことのできないものと考えています。
多様な地球環境問題
気候変動対応に加え、水資源、生物多様性といった天然資源の持続性に対するリスク認識やその情報公開に関しても各国で議論や具体的な情報開示要求が進んでいます。日本触媒グループでも、CDP(Carbon Disclosure Project)を通じた水資源に関する情報公開を行うとともに、2022年度末より生物多様性に関するリスク調査の結果公表を開始しました。また、当社は廃水処理触媒や海水淡水化向けの浸透圧発生剤など水資源に貢献できる製品を扱っています。当社はこれらの製品を通じて社会に貢献すると同時に、社会課題を化学会社としての機会と捉え、新たな環境貢献製品の開発を推し進めて当社の成長につなげてまいります。
組織の変革
企業が持続的に成長していくためには、個人と組織の成長が不可欠です。社員が働きやすい環境や制度を整え、多様な人財がいきいきと働き、個人も組織も共に成長できる会社の実現を目指しています。具体的には、人財育成・活躍推進、組織の成長、コーポレート・ガバナンスの強化の3つの課題を設定し、施策を進めています。
人財育成・活躍推進としては、2022年度から新人事制度の運用を開始しました。また自律型人財の育成とともに多様な人財活躍・働き方を支える制度の整備などを進めました。
組織の成長としては、判断の迅速化を図るために決裁権限の委譲を実施しました。また、社員が経営層に対して提案できる仕組みなど、経営と従業員との対話強化については今後も継続していきます。
コーポレート・ガバナンスの強化としては、複雑化・多様化する課題への対処に向け、経営陣のスキルマトリクスを整理しました。また、中長期的な業績向上と企業価値増大への貢献意欲を高めるため、2022年度から業績連動型株式報酬制度を導入しました。今後も各施策の運用と改善を通じて、企業の成長につながるガバナンスを追求してまいります。
また、これらの施策を推進・強化するため、エンゲージメントサーベイを実施し、運用を開始しました。2022年度のサーベイでは、『事業の成長性や将来性』や『経営陣に対する信頼』などの点で、改善の余地があることが、従業員から示されました。中期経営計画を推進するうえで、改善すべき課題と受け止め、変革に向けた継続的な取り組みを進めてまいります。
組織の変革については昨年度に仕組みを整えました。組織の変革は、中長期的な事業の変革、環境対応への変革の成否を左右する重要な取り組みと位置付けています。
DX推進
2022年度は3つの変革を進めるため、DX推進を加速させました。DXで目指す内容の理解やデジタル活用における基礎知識の習得を目的に、全従業員を対象としたDX研修を開始しています。また、ソリューション提案力強化におけるプラットフォームや情報の連携・活用を支援するシステムの導入を進めました。
特に注力しているのは、生産部門を中心としたプラント情報の一元管理や生産計画最適化の取り組みです。まずは情報検索時間や計画策定時間の大幅削減という具体的な改善を進め、予兆保全や省エネルギー化実現の可能性を探っていきます。
デジタルの活用は変革を支えるためにますます重要な手段となる一方で、その効果の最大化は、一部の専門的な人財だけに依存した状況では実現不可能であると考えています。今後も、DX推進上必要な人財確保のため、全社的な教育を充実させていく予定です。
結び
当社が2022~2024年度を変革の基盤づくりと実行の期間として、変革に向けた取り組みを着実に進めている一方で、外部環境は、当社の施策スピードと関係なく変化を続けています。
2030年の目指す姿に掲げているように、当社は「人と社会から必要とされる素材・ソリューションを提供」することを通じ、「社会の変化を見極め、進化し続ける化学会社」への変革を加速してまいります。
変革に際しては、「社内外のさまざまなステークホルダーとともに成長」していくべく、社内外での対話を重視し、さまざまな提案をしっかりと取り入れながら、目に見える形で会社をより良い方向に変えていきたいと考えています。また、全てのステークホルダーの皆様との協働を通じて、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
そして、「安全が生産に優先する」の社是のもと、地域社会の方々の安心な生活やお客様への安定供給、従業員の安全な労働環境の維持など、当社が果たすべき責任を重く受け止め、引き続き、安全・安定な生産活動を推進してまいります。